最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)893号 判決 1969年12月18日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人楠朝男の上告理由第一点について。
被上告人らに対し本件各賃貸借契約の不存在確認を求める法律上の利益がある旨の原審の判断は、その説示に徴し正当として肯認することができ、原判決には所論の違法は認められない。したがつて、論旨は採用しえない。
同第二点について。
民法三九五条により抵当権者に対抗しうる農地の短期賃貸借の期間が、抵当権実行による差押の効力の生じた後に満了した場合には、賃借人は、農地法一九条による法定更新をもつて抵当権者に対抗できないものと解すべきであり(最高裁判所昭和三七年(オ)第二二二号同三八年八月二七日第三小法廷判決、民集一七巻六号八七一頁、同裁判所昭和三八年(オ)第一一六六号同三九年七月二九日第二小法廷判決、裁判集民事第七四号八一三頁参照)、同法二〇条の規定も右解釈を左右するものではない。本件において原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定した事実によれば、第一審判決添付の第一目録記載の農地に対しては、その所有者訴外八田三郎と上告人内田貞夫との間で、原審認定の根抵当権設定登記が経由された後である昭和四一年一一月七日に民法三九五条の短期賃貸借契約(期間一年)が締結され、同第二目録記載の農地に対しては、その所有者訴外八田茂と上告人柴原喜久義との間に原審認定の根抵当権設定登記が経由された後である同日に同じく短期賃貸借契約(期間一年)が締結され、それぞれその引渡がなされ、同第一目録記載の農地に対しては被上告人の申立により昭和四二年二月一八日競売手続開始決定がされ、同決定は債務者に送達されるとともに同月二〇日競売申立の登記がされ、同第二目録記載の農地に対しては後順位の訴外岡山県信用保証協会の申立により同年一月一九日競売手続開始決定がされ、同決定は債務者に送達されるとともに同月二〇日競売申立の登記がされ、いずれも差押の効力が生じた後に右各賃貸借契約の期間が満了したというのであるから、上告人らは、いずれも農地法一九条による法定更新をもつて抵当権者である被上告人に対抗できないものといわなければならない。これと同旨の原判決の判断は正当であつて、論旨は採用しえない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)